順番が来るより先に、
こちらが持たなくなる
あと半年なのか、二年なのかは誰にも分かりません。分からないまま、今日も夜が来ます。在宅で限界まで粘って、介護している側が倒れてから施設が決まる——これは珍しい話ではありません。待つ期間をどう設計するかは、順番待ちと同じくらい現実的な課題です。
限度額を超えた分は全額自己負担
介護保険の居宅サービスには、月ごとの上限があります。介護保険法第43条の区分支給限度基準額です。要介護度ごとに上限が決まっていて、超えた分は全額自己負担になります。
ここは、知っておくと選択が変わる部分です。上限を超えて介護保険のサービスを足すと、超過分は10割負担になります。つまり、超えた先では保険内も保険外も同じ全額負担です。それなら、時間帯や内容を自由に選べる保険外のサービスを混ぜたほうが、同じ出費で欲しい手が入ることがあります。
いま限度額のどのあたりを使っているかは、ケアマネジャーが把握しています。聞けばその場で分かります。
全部を外に出さなくていい。1つだけ選ぶ
介護を丸ごと誰かに渡そうとすると、費用も段取りも大きくなって、結局何も変わりません。いちばん削れているものを1つだけ選んでください。
どれか1つでいい
- ① 夜が削れているなら、夜だけ夜間の見守りや排泄の対応を、週に1〜2回だけ外に出す。週に2回続けて眠れる日があるかどうかで、持つ期間が変わります。
- ② 通院で仕事を失いそうなら、付き添いだけ通院の付き添いは、介護保険の訪問介護では原則として対象外になる部分があります。→ 介護保険で頼めないこと
- ③ 家が回らなくなっているなら、家事だけ本人以外のための調理・掃除・買い物は、介護保険の生活援助では頼めません。ここを外に出すと、介護そのものに使える時間が戻ります。
- ④ 自分が休めていないなら、ショートステイの回数ケアプランの組み直しで増やせる場合があります。増やせるかどうかは、限度額の残りと空き状況によります。ケアマネに聞いてください。
4つ全部やる必要はありません。1つやると、次の1つを考える余力が戻ります。
手の増やし方には順番がある
先にやるほど効くもの
| 順 | やること | 効き方 |
|---|---|---|
| 1 | ケアマネに限度額の残りを聞く | その場で分かる。残っていれば保険内で増やせる |
| 2 | ショートステイを増やせるか聞く | まとまった休みになる。空き状況次第 |
| 3 | 老健を併願する | 特養より入りやすいことが多い。待機は続けられる |
| 4 | 保険外を1項目だけ入れる | 要介護度を問わず、必要な時間だけ頼める |
| 5 | 施設見学 | 順番が近づいてからで間に合う |
1と2は費用が増えないことがあります。先に確かめてから、3以降を考えてください。
老健に入っている間も、特養の申込みは続けられます。在宅で粘るより、施設から状況が伝わる分だけ判定に乗りやすくなることがあります。→ 申し込み先を増やす
ショートに預けたのに、楽にならなかった人へ
失敗したのではありません。休み方が残っていないだけです。
預けた日に溜まった家事を片付けて、書類を書いて、次の手配の電話をして終わる。これでは、体は休んでいません。預ける日を作ったなら、その日は家事も手続きもしない、と決めてください。家事のほうを外に出すと、それができます。
もう1つ。帰ってきた翌日に状態が戻る(あるいは悪くなる)ことがあります。これも、預けたのが間違いだったということではありません。環境が変わった直後は、しばらく落ち着かないのが普通です。担当のケアマネと施設に、その様子をそのまま伝えてください。それも判定の材料になります。
気づきにくい限界のサイン
自分のことは、いちばん後回しになります。次のうち2つ以上当てはまるなら、いまが手を増やす時期です。
当てはまるものがあるか
- 眠れている時間が、続けて4時間を切る日がある
- この1か月で、仕事を3日以上休んでいる
- 自分の通院や検診を後回しにしている
- 本人に怒鳴ってしまうことがある
- 誰にも今の状況を話していない
- この先どうなるかを考えると、手が止まる
4つ目に印がついた人へ。それは、あなたの人格の問題ではなく、限界の状態です。通知が特例入所で考慮する事情にも、心身の安全・安心の確保が困難であることが挙げられています。隠さずに、地域包括支援センターか市町村に話してください。→ 要介護1・2でも申込みは断れない
待ち続けるか、民間も並行して見るか
ここまでは「在宅を持たせる手」でした。もう一つの道が、このページには書いてありませんでした。待たずに入れる施設を並行して見ておくことです。
まず、待っている人の数を置きます。厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)」の公表値です(2025年4月1日時点)。
特養の入所申込者(令和7年度・厚生労働省)
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| 入所申込者の総数 | 22.5万人 |
| うち要介護3以上 | 20.6万人 |
| 要介護3以上で、在宅で待っている人 | 8.6万人 |
在宅で待っている人は全体で9.5万人、申込者の42.2%にあたります。あなたの家だけの話ではありません。
8.6万人が、同じように家で待っています。順番が早く回ってくる理由は、どこにもありません。
並行して見ておいたほうがいい3つのサイン
- 申し込んでから1年以上、連絡が一度も来ていない
- ショートを増やしても、次の週には元に戻っている
- この先3か月を、いまのままで回せる自信がない
1つでも当てはまるなら、いま契約する必要はありませんが、費用の桁だけは知っておいてください。特養と民間の施設は、制度の作りが違います。
特養と、民間の施設の違い
| 特養(介護老人福祉施設) | 有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 | |
|---|---|---|
| 入居まで | 順番待ち。申込順では決まらない | 空室があれば決まる |
| 対象 | 原則 要介護3以上(特例入所あり) | 施設により自立・要支援から |
| 費用が下がる仕組み | 負担限度額認定がある(申請制) | 原則ない |
| 入居一時金 | ない | 施設によりある |
| 介護保険の位置づけ | 介護保険法第8条第27項 | 特定施設入居者生活介護=同第11項(対象の施設の場合) |
費用が下がる仕組みの有無が、いちばん大きな違いです。だから民間は高く見えます。ただし「順番を待つ間に介護する側が倒れる」費用は、この表には出てきません。
比べる基準がないまま急ぐと、勧められた1か所で決めることになります。資料を取り寄せるだけなら無料で、断っても構いません。いま知っておきたいのは「どこに入るか」ではなく、「いくらから入れるのか」という桁です。桁が分かれば、あと何か月待てるかを自分で計算できます。
先に見ておく施設の種類は、申し込み先を増やすにまとめています。老健(介護老人保健施設)は特養より入りやすいことが多く、ここを先に当たる手もあります。
自分の場合はどうなるか
限度額をすでに使い切っている
費用をかけたくないので、自分でやりきりたい
他の家族が協力してくれない
本人が他人を家に入れるのを嫌がる
家が片付いていないので、人を呼べない
よくある取りこぼし
限度額の残りを知らないまま我慢していた
ケアマネに聞けばその場で分かります。残っていれば、保険内で増やせます。
超えた分も1〜3割で済むと思っていた
区分支給限度基準額を超えた分は全額自己負担です(法第43条)。
特養が決まるまで何もしなかった
順番が来る時期は読めません。待てる体力を作ることが、結果的に入所までの期間を持たせます。
老健は特養が決まったら出るものだから意味がないと思っていた
老健に入っている間も特養の待機は続けられます。
介護保険で何でも頼めると思っていた
本人以外のための家事、通院の付き添いの一部などは対象外です。→ 介護保険で頼めないこと
自分が倒れる前提を考えていなかった
介護している側が入院したときの受け皿を、先にケアマネと決めておいてください。
よくある疑問
保険外のサービスは、要介護認定がなくても頼めますか
1回だけ頼むこともできますか
保険外を使うと、特養の判定で不利になりませんか
ショートステイは何日まで使えますか
どこに相談すればいいか分かりません
このサイトは、特養の入所の決まり方を、条文と厚生労働省の通知で確かめて書いています。施設ごとの点数の付け方と、いま何番目かは、施設と市町村が持っている情報です。ここでは、その判定に何が使われるのかと、あなたの側から動かせる部分だけを書きます。
確認に使った一次情報
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第7条e-Gov法令検索
- 指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について(平成26年12月12日 老高発1212第1号)厚生労働省
- 介護保険法 第8条第22項・第27項/第51条の3(特定入所者介護サービス費)e-Gov法令検索
- 介護保険法施行規則 第17条の9(要介護状態区分)/第17条の10(特例入所)e-Gov法令検索
- 要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令 第1条第1項e-Gov法令検索
- 厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)」(令和7年12月25日公表・調査時点2025年4月1日)厚生労働省
- 東京都大田区「特別養護老人ホームへの入所を希望される方へ」(優先度評価は年3回・有効期間1年・変更届)大田区
- 京都市「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の入所指針について」(申込みは各施設へ・様式4の変更届)京都市
- 老人福祉法 第11条第1項第2号(措置入所)/第20条の5e-Gov法令検索
2026年9月15日に e-Gov法令検索と厚生労働省のページで確認した条文・通知です。点数の配点は施設と自治体が作る指針で決まるため、ここでは配点を書きません。判定に何が使われるかは、上の条文と通知で確かめられます。
限界のサインに1つでも印がついたなら、今夜の分から代わってもらえます
施設に入れると決める必要はありません。今夜の見守りだけ、通院の日だけ、という頼み方ができます。家が片付いていなくても構いませんし、要介護度も認定の有無も問いません。
- まだ決めていない段階でも相談できます。使うかどうかは、話を聞いてから決められます
- 要介護認定や区分を問いません。介護保険の枠の外のサービスなので、認定を待つ必要がありません
- 相談は無料です。いま頼むかどうかは、金額を聞いてから決められます
特養の申し込みガイドの記事一覧
一次情報の確認先
このページに書いたことは、以下の公的機関の公表情報で確かめています。制度は変わることがあるので、確かめた日を各所に書き、確認先も置いています。