工事が終わってから気づいた。それでも聞くべき窓口がある
介護保険の住宅改修は、工事をする前に市区町村へ申請するのが原則です。ところが実際には、手すりを付けてもらってから「あれ、保険が使えたのでは」と気づく人がいます。ここでは、なぜ事前なのか、事後になったときに何が起きるのか、どこまでなら間に合うのかを、制度の側から整理します。
原則は工事の前
公益財団法人 長寿科学振興財団の健康長寿ネットは、手続きをこう書いています。
改修工事の前に市町村の窓口に申請をする必要があります。
申請に必要なものは、おおむね次のとおりです。そろえるのに時間がかかるのは理由書と見積書で、どちらも他人に頼む書類です。ここが日程の要になります。
工事の前に出すもの(一般的な構成)
| 書類 | 誰が用意するか | つまずきやすいところ |
|---|---|---|
| 支給申請書 | 本人・家族 | 様式は市区町村ごとに違う |
| 住宅改修が必要な理由書 | ケアマネジャー等の専門職 | 担当がいないと止まる |
| 工事見積書 | 工事業者 | 対象部分と対象外部分が分かれて書かれているか |
| 改修前の写真 | 工事業者・家族 | 工事後には撮れない。ここが事後で一番困る |
| 承諾書 | 住宅の所有者 | 借りている家の場合に必要 |
必要書類は市区町村ごとに異なります。窓口で一覧をもらってください。
なぜ事前でなければならないのか
「工事は済んでいるのだから、領収書を見せれば同じでは」と思いたくなります。ところが制度の側から見ると、事前と事後では確かめられることが違います。
事前と事後で、確かめられることが変わる
| 確かめる中身 | 工事の前なら | 工事のあとだと |
|---|---|---|
| 工事の前の状態 | 写真と現地で分かる | もう見られない |
| その工事が本人に必要か | 理由書で説明できる | 済んだ工事に合わせた説明になる |
| 6種類に当たるか | 見積書の段階で直せる | 直せない。対象外なら全額自己負担 |
| 金額が妥当か | 他の見積もりと比べられる | 比べる相手がいない |
事前申請は手続きの形式ではなく、「その工事が必要だったか」を確かめられる状態を残すためのものです。
とくに改修前の写真は、工事が終わってしまうと二度と撮れません。ここが事後でもっとも詰まるところです。
工事のあとに気づいた場合
まず正直に書きます。事前の申請をしていない工事について、あとから支給を受けられるかどうかは、市区町村の判断です。国の通知には「工事の前に申請する」という原則が示されており、事後の取り扱いをどこまで認めるかは保険者が決めています。ここを一律に「出ます」「出ません」と言うことはできません。
そのうえで、あきらめる前にやることが2つあります。
工事のあとに気づいたときの2つ
- 窓口に、事実をそのまま伝えて相談する「工事が終わってしまったが、支給の対象になるか」と聞きます。隠して申請するより、先に相談するほうが結果が良くなります。
- 今ある材料を集める工事の契約書、見積書、領収書、そして工事業者が撮った施工前の写真。業者は工事記録として撮っていることが多く、頼めば出てきます。
2つ目は見落とされがちです。自分では撮っていなくても、業者が撮っていることがあります。まず業者に「工事前の写真は残っていますか」と聞いてください。
まだ間に合うことがある場面
「もう工事した」と思っている状態でも、制度の上ではまだ間に合っていることがあります。
間に合う可能性がある状態
「もう遅い」と思ったときほど、どこまで進んでいるかを正確に数えると道が残っていることがあります。
見積もりをもらって、口約束をしただけ
契約はしたが、着工していない
一部だけ終わっていて、続きがある
応急で付けた手すりを、本工事に替える予定がある
一部だけでも残っていれば
住宅改修は、玄関・廊下・浴室・トイレというように場所ごとに分かれます。全部を一度にやる必要はありません。先に手すりだけ自費で付けてしまった場合でも、これから行う段差の解消は事前申請の対象にできます。
この考え方は、支給限度基準額を使い切っていない場合に効きます。20万円のうち使った分だけが減る仕組みなので、残りをこれからの工事に回せます。詳しくは20万円は何回に分けられるかにまとめました。
次の工事のために残しておくこと
事後になってしまった工事は、まだ結果が分かりません。ただしこの先の工事は、いまから間に合います。次にやる可能性のある場所を先に決めて、その場所の「いまの写真」を撮っておいてください。数か月後に工事の話が出たとき、この1枚があるかないかで手続きの速さが変わります。
写真は、その場所の全体が分かる引きの1枚と、困っている箇所の寄りの1枚を撮ります。日付が分かる形で保存してください。スマートフォンで撮れば日付は自動で残ります。
確認の順序
いま撮って、いま保存しておくもの
- これから工事する場所の、工事前の写真(日付が分かる形で)
- 工事業者から受け取った見積書(対象部分と対象外部分が分かれているもの)
- 工事の契約書。着工日が書かれているもの
- 本人の状態が分かる記録(介護保険の認定結果通知、ケアプラン)
- 借りている家なら、所有者の承諾書
申請をやり直すと、工事はさらに先になります
申請から工事までは日数がかかります。その間の入浴介助や移動の付き添いを、必要な分だけ頼む方法があります。相談・見積もりは無料です。
- 相談は無料です。いま頼むかどうかは、金額を聞いてから決められます
- 介護保険で断られた用事から話して構いません
→ 先に出すお金を10分の1にする払い方/理由書は誰が書くのか/工事のあとに気づいたとき/20万円は何回に分けられるか/借りている家で工事するとき/借りるか買うかを選ぶ/保険で頼めないこと一覧
工事のあいだ、台所と浴室が使えなくなる
見落とされやすいのが工事期間中の生活です。浴室の床をかさ上げする、和式を洋式に替える、床材を張り替える。どれもその部屋が数日使えなくなります。
とくに問題になるのが台所です。給排水の工事が入ると、水が止まる時間帯があります。調理ができない日が何日あるかを、工事業者に先に聞いてください。「1日で終わります」と言われても、養生と乾燥の時間が別に要ることがあります。
工事の場所ごとに、その間できなくなること
| 工事する場所 | 使えなくなるもの | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 浴室(床のかさ上げ・手すり) | 入浴 | 何日か。その間の入浴をどうするか(デイサービス・訪問入浴) |
| トイレ(洋式への取替え) | トイレ | ここは代わりが利かない。仮設の有無を必ず確認 |
| 台所まわりの床・段差 | 調理・水道 | 調理できない日の食事をどうするか |
| 廊下・玄関の床材 | その動線の通行 | 本人が通れる別の経路があるか |
工事の見積もりを取る段階で、「何日、どこが使えなくなりますか」と聞いてください。この質問に具体的に答えられる業者は、段取りができています。
調理ができない日は、冷凍で届く食事をあらかじめ用意しておくと、家族の負担が増えません。工事の日程が決まった時点で手配しておくのが確実です。
事前申請が無かったために出なかったのは「その工事の費用」だけです。支給限度基準額20万円は、1円も使われていません。次の工事のとき、枠はそのまま残っています。
そして手すりは、工事をしなくても付けられます。床に置くだけの据置型手すりは福祉用具貸与(レンタル)の対象で、住宅改修とは別の枠です。事前申請も工事も要らないので、今回のような取りこぼしが起きません。
→ 福祉用具は借りるか買うか/20万円の枠はリセットされるか/申請の期限は領収日の翌日から2年
同じ制度なのに、自治体でここまで違う
2026年9月11日に6自治体の公表内容を実測しました。手続きの入口そのものが、市区町村によって違います。
実測した6自治体の違い(2026年9月11日確認)
| 自治体 | 公表されている内容 |
|---|---|
| 町田市 | 「町田市では住宅改修が必要な理由書の作成及び事前申請書類の提出をケアマネジャーまたは高齢者支援センター職員からのみ受け付けております。」=本人・家族が窓口に持っていっても受け付けられない |
| 江東区 | 「被保険者が工事内容を区へ申請し、事前申請確認書の発行後、工事着工できます」「事前申請確認書の発行前に工事を行った場合は支給対象外」 |
| 北区 | 同じ趣旨の制度を「代理受領方式」と呼ぶ。「住宅改修代理受領登録事業所」と「特定福祉用具代理受領登録事業所」の一覧を別々に公表 |
| 墨田区 | 「平成29年6月1日以降に住宅改修費受領委任払い申請ができるのは、事前に墨田区に登録した改修事業者のみです」。ただし「償還払いによる申請については、事業者の登録は不要」 |
| 板橋区 | 「保険料の滞納により…支払方法変更の記載を受けている方」「入院・入所中、認定申請中(認定区分変更中を含む)、転居前」は受領委任払いを使えない |
| 横浜市 | 必要書類に「明細入力票3」という独自の様式がある。「工事施工前の写真」「完成予定状態がわかるもの」も必要 |
出典:町田市・江東区・北区・墨田区・板橋区・横浜市の公表内容(2026年9月11日確認)。申請の方法・必要書類・受領委任払いの可否と呼び名は、市区町村ごとに異なります。
ここから言えるのは「自分の市区町村のページを見ないと分からない」ということです。他の自治体の手引きをそのまま持っていくと、入口で止まります。
確認に使った一次情報
- 厚生労働省「福祉用具・住宅改修の概要」(介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会 第1回 参考資料2)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001501983.pdf
- 厚生労働省 老企第42号「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」法令等データベース
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット居宅介護住宅改修費(介護予防住宅改修費)とは
- 横浜市「介護保険の住宅改修費について」横浜市 住宅改修費
- 江東区「介護保険住宅改修費の支給」江東区 住宅改修費の支給
- 墨田区「住宅改修費受領委任払い(事業者登録)」墨田区 受領委任払い
- 板橋区「介護保険住宅改修費等受領委任払い」板橋区 受領委任払い
- 町田市「住宅改修の事前申請」町田市 事前申請
- 北区「福祉用具購入費・住宅改修費の代理受領方式」北区 代理受領方式
よくある疑問
申請から工事まで、どのくらいかかりますか。
工事業者が「申請は代行します」と言っています。任せてよいですか。
緊急で手すりが必要でした。事情は考慮されますか。
領収書は誰の名前にすればよいですか。
自費で工事した分は、あとから20万円の枠に影響しますか。
事後でも認められた例を聞きました。うちも大丈夫ですか。
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- 受領委任払い
- 家族介護慰労金
- 障害福祉の負担上限月額
- 高額医療・高額介護合算療養費
- 重度障害者医療費助成
- 自動車税の減免
- 住宅改修が必要な理由書
- 住宅改修20万円の枠
- 借家の住宅改修と承諾書
- 福祉用具の貸与と販売の選択制
- 見積もりと業者の選び方
- 申請の期限(2年)
- 福祉用具購入費の受領委任払い
- 高額療養費の受領委任払い
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本ページは介護保険の住宅改修についての一般的な整理です。申請の様式・期限・受領委任払いの有無は市区町村ごとに異なります。実際の手続きは、担当のケアマネジャーと、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口にご確認ください。
一次情報の確認先
このページに書いたことは、以下の公的機関の公表情報で確かめています。制度は変わることがあるので、確かめた日を各所に書き、確認先も置いています。